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― 消えゆく前の ―

※一族妄想です

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経介と散羽。

経介の最期の出陣前夜。






四月の終わり。

日中は暖かく、春の心地よい日差しがあらゆる生命に活気をもたらしている。

庭で娘に術の手解きや、刀を用いての手合わせをしていると汗が滴るほどだ。

それでも日の入りを迎えれば、思い出したように冷気が流れ込んでくるのでまだ羽織が手放せない。

今宵もそんな季節の合間の静かな夜だった。

ひとりの男が自室で難しい顔をして、とあるものと対峙していた。

男の名は経介という。

わずかに差し込んだ月明かりが、経介の長くきっちりと結われた金の髪を照らしている。

経介が先程から睨んでいるそれは湯呑みだった。

中にはわずかに黄みがかった湯が入っており、独特のツンとした芳香を立ち上らせている。

淹れてからすこし時間が経っているのか湯気はあまり立っておらず、口をつけても火傷を負うことはなさそうだ。

その湯は"神秘陽光湯"という漢方薬だ。

経介は背筋を伸ばし、ゆっくりと深呼吸した。そして堰を切ったように湯呑みをつかみ、中身を一気に胃へと流し込む。

「っがあー!!糞不味いなあやっぱりよォ!!」

やや中性的な容姿に似合わない野太い声で悪態をついた。

叫んでから、もう家族が寝静まっていることに気づき、口を抑えて軽い自己嫌悪に陥る。

「情けねえなあ、クソ」

苦味の残る口をわずかに開きそう呟いた。

「経介、起きてるの」

しばらく俯いていると静かな、しかしよく通る声が聞こえてきた。

「入るよ」

返事をする間も無く、声の主は自ら襖を開いた。

「・・・・・・誰もいいとは言ってないだろ」

「ええ、聞いてないもの」

声の主である女性は襖を閉め、経介の正面に腰を下ろした。そこまでの動作に、一切の物音を立てる事なく経介と対峙する。

「散羽・・・・・・。その性格ほんと変わんねえよなあ。俺が言えたことじゃねえけどよ」

散羽と呼ばれた女性は、特に表情を変えることなく小さく頷いた。

「気を遣う仲でもないでしょ。・・・・・・薬、ちゃんと飲めたの」

「ああ、大丈夫だ」

いつまでも子供じゃねえんだから――。と言おうとしたが、そこまでは告げられなかった。

そうだ、もう子供ではないのだお互いに。

そうやって少し感慨に耽っていると、いつの間にかすぐ隣りに居た散羽に抱き寄せられた。

「なっ、なんだよ」

突然のことに経介は少し身じろぎしたが、散羽の方がやや体格がいいせいか徒労に終わった。

「お前の髪は、良いな」

「は?」

「良いな、私が伸ばしてもこうはならんよ」

そう言うと散羽は、経介の髪の束を手にとって、いとおしむように手で梳いた。

生まれた頃から、切り揃える以外に鋏みを入れなかった髪だ。それが今では腰の当たりまで伸びている。

短くするのも楽でいいかと考えたこともあったが、出陣の前にしっかりと髪を結い上げると自然と気が引き締まるような気がしてなんとなく切れずにいたのだ。

それに経介は男にしては、武人にしては華奢な方で、せめて髪を伸ばすことで体を大きく見せたかったのかもしれない。

散羽はひと月だけしか年が違わず、自然と一緒に過ごすことの多い、経介にとっては姉のような存在だった。

いつから自分の髪のこと気にかけられていたのか。散羽自身はいつも短くしていたのでそういったことに頓着は無いと経介は思っていたのだ。

「まあな。これでも一応手入れしてあるからな」

経介は謙遜せずに言った。

「ふふっ、うらめしい奴。――お前が初陣の時に狐の鬼に焼かれて帰ってきた時なんかは、まず先に髪がどうなったか心配したものだよ」

「はっ、ひでえなあ」

命が無事だと知った上でそう言っていることを経介は知っていた。

――あの女の鬼。そしてその前に立ちはだかる狐の妖怪。あの鳥居の迷宮。

祖父の代から、特に経介たち剣士の家系において、あそこは因縁の場所なのだ。

そして次の討伐で、経介の手でとうとうそれを断ち切ることに決めたのだ。

「私は、止めぬよ」

散羽に言われて、考え込んでいた経介は少しハッとなった。

「行くと決めたからには、退く事はゆるさんよ」

そう言うと散羽は先程より強く経介を抱きしめた。

散羽は気付いている。経介の命が、風前の灯であることに。

「ったりめえだ。俺を誰だと思っている」

経介は強く言う。煽られるほどに強く存在を示す、炎のような性だ。

「お前は、私の大事な弟だ。そしてソルは妹だ。失いたくないと願っている大事な家族だ」

散羽の真剣な返しに、不覚にもジンときて経介は顔を背けた。

「・・・・・・息子は、紅焔はいいのかよ」

「もちろん大事だ。幾史音もな。だから何かあったら許さんよ。隊長のお前を」

「言ってることおかしいぞ」

「信じているからな。だから。――必ず無事で帰ってきて」

「ああ」

秋津という姓には不退転という意味が込められている。散羽はとくにその志が強く、まさに秋津家の武人と言えた。

そして経介もその名に恥じぬ戦いをするのだ。最期まで。

「次の出陣の前には、私に髪を結わせてくれるな」

「ああ、頼んだ。ソルの髪もな。あれでも女の子だからな。綺麗にしてやってくれ」

「当然だ」

二人は笑った。

幸せな時間だった。

終わりがあると知っているから。

終わりが来ると知っていたから。

尚更だった。






























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